流しの職人その後

門近くのヒバが居ない事に夜気づく。
電話してみたけど繋がらない(職人さんは夜が早い)。
朝、ハサミの音で目が覚めたので、尋ねてみた。


そのヒバは、元木がもう無く、唯一地面付近から生え残っていた枝が太く成長していただけだった。
親枝は朽ち始めていたけれど、地を這うように他の木の間を太陽光を求めてうねりながら育っている、その木の強さが私は好きだった。
何よりも、親からの代の木は、必ず残してくれと頼んであった。


植木屋さんは詫びてくれ、生きてたならまた必ず生えてきますよ。
と言ってくれたけど、枝の殆ど根元からノコで切られており、新しく枝芽を出すには元木の力に不安があった。


痛みで食事も睡眠もとれず、病院に行くまでにかなり衰弱していたミーちゃんが、
手術は成功したものの麻酔から覚めることが出来ず、死んでしまった経緯を思い出す。
「こういう状況で、今はこう弱っているから」と医者に伝えなかった事を、
親とどんなに悔やみ、詫びたか。
それと同じ事を、私は繰り返した。


「もしダメなら、新しいのをここへね、」「そういうことじゃないんです!」
替えなんて要らない。そういうものじゃないんだ。


死なないで。頑張って。
また、「邪魔だなお前ー」って軽口叩かせて。


追記:
その後、職人さんはバックれた。
ヒバも再生しなかった。
彼に連絡が取れなかったのは夜が早いからじゃなく、「クレーム防止策」であった事に気付く。
ペンキの缶や、その他のゴミもそのまんま。

やられた。