屋根の葺き替えその後

朝も早から‘本日の予定’電話がきたり些細なことで承諾の連絡を寄こしたりしていた営業氏。マメなことだと鬱陶しいながらも感心していたのだが。
材を運び入れられた庭に絶句した。


こんなに門からの見通しは良く無かったはずだ。
そして記念に撮り置いてくれと伝えておいた旧材が一片も残って居ない。


踏み壊された花壇、薙ぎ倒された木々、折られた枝。そして。
無様に切り取られた松の枝。
確かに梯子を掛ける為に柿の枝を払う旨は承諾した。しかし、ほかの枝を切ることなぞ聞いていない。
置いてあったスレートは新品。そんな物に用は無い。
何の為にファミレスで長々と家に対する想いを話したのか。
「指示のミスです。言葉が足りませんでした」
ふざけるなぁっ



「慰謝料を請求します」
今まで業者に対し、ここまで怒りを覚えた事は無かった。きつい言葉を並べた事は無かった。


どうしたらよいかと問う営業氏に、会社には連絡しないからそちらで考えてくれと答えた。
上司に相談するなり何なり、そちらの会社のマニュアルで構わないと。
ただ、弁償額等で自腹を切る事は後味が悪いのでしないでくれと。


後日。支払いの件もあり、営業氏と会った。
「正直言いまして最近眠れてないんです」「そうでしょうね」
前例や‘考えた’事を伺う。
今までは取りあえず謝り倒して事無きを得てきたらしい。


「どうしたらよいか、おっしゃっていただきたいんです」
「言っていいんですか」
「お願いします」
「元に戻してください。木も、地面も屋根も全部」
「・・・それは…」
「であれば結構です。謝罪の言葉も要りません。返金も望みません。はっきり申し上げて、そちらにお願いしたことを後悔しています。それだけです。失礼します。」
何か言いたげな営業氏を見続けるのも嫌で、退席してしまった。


弁償もしなくてよい、値引きもせずに済んだ。良心の呵責が多少あったにせよ、以降の仕事にかまけている内に忘れてしまうだろう。
営業氏にしては、得たりと言ったところだと思う。


確かに多額の出費だった。こちらが望めば半額と言っても返して寄こしただろう。会社に連絡し、しかるべき処置を取ってもらう手もあっただろう。
でも。少しでも、例え数分でも長く後悔して欲しかった。嫌な気分であって欲しかった。
よくぞ殴らなかったと思う。


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旧材は、二片程戻ってきた。新しく置いていったものもそのまま残った。
用途は未定。今のところは鳥の餌台になっている。